今日は宮内悠介さんの『あとは野となれ大和撫子』を読みました。
時を忘れてイッキ読み!非常に勢いがあって面白かった!
舞台は中央アジアの架空の小国、アラルスタン。
この国では初代大統領が側室を囲っていた後宮を、女性の高等教育の場に変え、未来の官僚を育てています。ところが現大統領は突然の暗殺されてしまいます。
国家の危機に、国の中枢を担っていた官僚たちは皆逃亡。
残された後宮の少女たちは自分達の居場所を守るために『国家をいっちょやってみる』ことにするのですが…というお話。
…いやー、あらすじだけ読むと(タイトルも含めて)めっちゃフェミフェミしてませんか?私は正直ひと昔前にTwitterでみかけた『女だけの国』論争を思い出しちゃったんですよ(この本は2017刊行だから、論争以前だけど)。男女の差を広げていくような物語だったら辛いな、でも宮内悠介さんがそんな本を書く訳が無い...!
結果、予想通りでしたーー!
明るく爽快で、テンポの良いエンタメ!
内紛や環境問題については考えさせられるものの、主題はどうやってみんなで折り合って生きていくか、という小さな国家の物語。
冒頭は不甲斐ない政治家たちに見切りをつけた少女たちだけで話が進むんですが、すぐに国軍や、反政府組織といった男性たちが大事な役割を担ってゆくようになる。
そして日本人の両親を紛争で亡くした主人公、ナツキの一言でパッと世界が変わります。
戦争を始めたのは男でも女でもない。大人たちだよ
そんな訳で紛争の絶えない中央アジアの小国の代表として立つ羽目になった戦災孤児の少女たちは、思い通りにいかない現実に歯噛みしながらも皆で協力して立ち向かってゆきます。
植物工場の技師をしていた父を持つナツキの夢は、砂漠に雨を降らせること。
でもそんな夢でさえ、世界規模で考えたら良い事ではないのかも知れない、とナツキは悩みます。
作物の育たない大きな塩の砂漠が太陽光を反射して、地表の温度を下げている。
そこに住む人たちにとっては死の大地でも、世界規模で見れば地球温暖化の緩和に役立っているのかも知れないのです。
科学者はいつも、バタフライエフェクトについて考えなくてはいけない。
けれども変えることを恐れすぎていては前に進めなくなるのです。
だからナツキは、深く考え抜いて、やれることはやったと言えるような自分になること、そして後悔を残さないようにしたいと決意します。
一歩ずつ決意しながら、世界に踏み出していくのはナツキだけではありません。
国家の代表として、自分の中の強い復讐心を乗り越えてゆくチェチェンからの難民アイシャ。緊張すると子どもの頃の吃音が出てしまう臆病な自分をついに克服した、ウズベキスタン出身のジーラ。
少女たちも大人たちも、最後には一つになって国家の明日をつかみ取るために戦ってゆく。とても爽快なお話…!
多分本当の戦争は、こんな風に救いには満ちていないのだろうなと思います。
人の命はもっと簡単に失われてしまうだろうことも。
でも表紙や目次の作り、内容でも分かる通りこれは青少年に向けられたエンタテインメントだと思うのですよ。だから良いのです、作中に吹く塩の風に乗って、思い切りこの世界を楽しめば良いのです…!
物語のラスト、かつての後宮の主ウズマが語る、カントの一節が深いです。
限られた土地の中では、人はお互いに我慢しあわなくてはならない
それは後宮内での権力争いの話であり、様々な国家が共存する中東の話でもあり、世界的規模で見た地球環境の話なのかも知れません。
一歩一歩を積み重ねて、いつか望む未来に辿り着けたらいい。
そんな風に、未来に希望を抱きたくなる物語でした!