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一番最初の「マークスの山」を読む

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さて、今日は1993年に刊行された小説「マークスの山」・早川書房版の感想である。

なぜ今、こんな古い本を?という感じだが、2010年にWOWOWで連続ドラマ化され、大ヒットしたらしい。

その人気ドラマ版と映画版を両方見たお友達のマリさん id:mari1216 から内容が違うのが気になる、みんなの感想も聞きたい!的お題があり、せっせと読んでみた訳であります。

 お題「『マークスの山』関連でなんか書く」

 

んで、私は図書館で借りた早川書房のハードカバー版を読んだ訳なんですが。
根本的な疑問に突き当たります。

 

早川版(初稿)のマークス、ミステリーじゃなくね?

 

いや、面白かったんです!面白かったんですよ?

私は発売当時(10代)からこの本を読んだことがあり、まんまと合田×加納にハマり次作の照柿とか、レディジョーカーも読んではいるはずなんです。

しかしまるで記憶がないんですけどね…うふふ加齢…?
それとも合田×加納部分しか読んでなかった?萌えに走ってんじゃねぇぞ10代の私!

 

そういえば当時「このミス」大賞に選ばれた時も色々言われてた気が。

しかしながらカバー裏にも『本格警察小説』と書かれているし、警察ものとして読むなら今でも色褪せない面白さがあると思います。

だいたい2020年の今に、1990年代を舞台にした、しかも1975年頃の学生運動が犯行動機に関わってくるような話を読んでもそれなりに面白く読めるってだけでもスゴイ。

筆力半端ねぇな高村女史。
しかし筆致が硬すぎて慣れるまで読み難かったっス…w

 

マークスの山 (ハヤカワ・ミステリワールド)

マークスの山 (ハヤカワ・ミステリワールド)

  • 作者:高村 薫
  • 発売日: 1993/03/01
  • メディア: 単行本
 

 

 さて、ここからはネタバレバリバリで物語のあらすじと疑問点を書いて行きます。

 小説版は主に3つの視点から描かれています。

 

・警察サイド

 

まずは主人公である30代の警部補、合田。

彼は原発の反対運動に参加し、反体制的な言動により公安から目をつけられている学者とも付き合っている妻、貴代子と5年の結婚生活の末に別れています。

貴代子の兄、加納は検事ですが妹の原発反対運動が問題となり、地方に左遷され最近本庁に戻って来たばかり。

このへんで既に時代を感じます。反原発運動って大変だったんですね…

独身となった合田と加納は元々大学の同期であり登山パートナーなので、その後も非常に仲が良く合田から合鍵を貰った加納が掃除をしたりアイロンがけをしています。

よく分からないけど、当時の山仲間ってそうだったんですね(雑に流す)。

しかしながら合田も負けずに家事好きであり、毎日お気に入り白スニーカーを洗います。何足持ってるんでしょう。

合田も加納も、活動への参加で公務員である二人に迷惑をかけ、不倫の末に海外に高飛びした貴代子をなぜか『清々しい風』のような目で見ています。

ここらへん、めっちゃ作者の思想入ってますよね…そんでこの思想は物語の結末にもがっちり反映されてきます。

 

なお合田と加納の話ばかりしてしまいましたが、他の警察関係者たちもキャラが濃くて良いです。

私は合田の部下、森がお気に入り。

頭はめちゃくちゃ切れるのに正義感が強すぎて同僚を殴ったり問題を起こしがちなタイプ。ストレスや体調の不良からちょこちょこじんましん(アトピー?)が悪化し、顔を掻きながら歩く。やらかした事態を反省し引きこもるも合田から引っ張り出される…という愛嬌のあるキャラクターでした。

映画版では西島秀俊、ドラマ版では袴田吉彦と両方イケメンが演じています。
出世したわね森…!

 

・チームMARKS

 

愉快な山の仲間たち。

名門大卒のエリートだが全員後ろ暗い秘密で繋がっている、という嫌な仲。

松井(法務省幹部)、浅野(病院長)、林原(りんばらと読む。弁護士)、木原(大学理事)、佐伯(建設会社社長)の5人の頭文字を取ってMARKS。

学生時代の木原は学生運動のタレコミをしており、そのせいで同じ大学出身の野村は公安に追われる羽目になっている。

1976年頃(全員20代くらい?)、そんな野村に誘われた木原に巻き込まれ、山に行くことになったMARKSたち。木原は野村が自分の正体を知っていて誘ったのかも知れないと焦っており、仲間を巻き込み冬山で野村を殺害する計画を練っている。

 

・犯人サイド

 

チームMARKSが登山をしていた頃、同じ山で車の排気ガスによる一家心中があり、一人の少年が生き残る。

車から逃げ出し、大人でも4時間かかる初冬の山道を一酸化炭素中毒の状態で一人で下って来た少年(このへんが絶対トリックだと思ったのにたまたま助かっただけなんてあんまりだ)がのちの事件の犯人となる水沢裕之である。

豆腐屋の養子となった彼だが、助かった当初から声をかけてきた刑事をハサミで刺すなど精神面での不安を抱えている(後段でもともと母親が精神の病を持っており遺伝の可能性が高い事、一酸化炭素中毒の影響でその病が更に悪化したなどという話が出てくる)。

三年の周期で明るい山と暗い山という精神状態の悪化、回復を繰り返しており、10代の頃は強い鎮静薬を投与され身体拘束を受けるという違法な状態で長期入院させられていた。

 当時17歳くらいだった裕之に多分恋をしたのが、病院の看護婦真知子(27歳)。
真知子は10代の頃に中絶や離婚を経験しており、それが心の闇となっている。

裕之には目の光があると信じ、まだ大丈夫よね私たち、と自分に重ね合わせ彼の薬を抜き、手の拘束を外してやる(オプションで十代への強制手淫も付いていたのでelveさん激オコ)。

結果的にそれが裕之の最初の殺人(暴力看護師殺し)に繋がるのだが、事態の発覚を恐れた病院側は事件を隠匿(病院側と検察の癒着が疑われる)。

結局裕之は罪に問われずそのまま退院。

 

そして成人し、豆腐屋の客だった岩田幸平(南アルプスの作業小屋で暮らしていた作業員。MARKSたちが野村を埋める所を偶然目撃してしまった登山者が助けを求めて夜間に扉を叩くが、酩酊していた岩田は獣と間違えて殺害してしまう)とたまたま親しくなった裕之。

彼の持っていた工具を盗んでチームMARKSメンバーだった浅野の家にたまたま押し入り、末期がんだった浅野が仲間たちに向けて書いた4枚の手紙(全ての悪事を詳細に自白しちゃいました、テヘ♡)をたまたま手に入れてしまう。

 たまたまたまたま…睾丸乱発してんじゃねぇぞゴラ!(ここでミステリ好き激おこ)

 

 精神科病棟への入院記録があるはずの裕之だがなぜかそこはスルーされ(結局検察と病院の癒着)刑務所へ。

同じ頃山中に埋められていた野村が土砂崩れによって発見され、近くに岩田の時計が落ちていたため(スコップを盗んできた佐伯がついでに時計まで盗んで岩田に罪をなすりつけようとした)岩田は取り調べを受ける。

岩田が事件に関係がないのは警察側も理解していたが重度のアル中で精神状態がかなり悪化していた岩田は妄想と現実が分からなくなり自白。医療刑務所ではなく一般の刑務所に入れられる(チームMARKSの隠匿っぽい)。

 

同じ頃刑務所内で、置き引き泥棒の男から大金を脅迫によりせしめた時の話を聞いている裕之。

大金を手に入れた時の、色がひしめき合い音がさえずるという狂喜の世界は自分が調子の良い時の『明るい山』に似ていると思い、盗んだ浅野の手紙を使って脅迫しようと考える。

そしてたまたま同じ刑務所に収監されていた岩田に上手く接触し、事件の再審請求を出すよう言いくるめる。

 

刑務所を出た後、明るい世界を目指し真知子と仲良く暮らすためにも金を恐喝でせしめようとした裕之だったが、元ヤクザを差し向けられたりその報復に松井を殺したりと上手くいかない。

そのうちチームMARKSに雇われたヤクザに後をつけられ庇った真知子が撃たれ(ここ早川版では真知子が覆いかぶさった後撃たれてるけどドラマや文庫版は違うのかも。なお真知子がノートに寿司とかメロンについて書く記述もなかった、そもそもノートが出てこない)自暴自棄になる。

自分の養父母を殺害し、軽装で冬山に登り、隣に真知子のナース服一式を置いて山頂で凍死する。

 

 結局、癒着ダメ絶対、って話だったのかな?

 

そもそも事件の発端となる野村は心臓麻痺で死亡。
勝手に埋めなきゃ罪に問われなかったのに、野村が公安に追われていたことから自分たちの未来に傷がつくことを恐れ、隠匿してしまう。

公安側も、野村の足取りが南アルプスで途絶えているのは知っているはずなのに、一緒に山に行ったメンバーがお偉方の息子だから口を噤んでしまう。

 

穴掘って埋めた佐伯はスコップをわざわざ借りた場所の戸口に返しに行き、その後埋めたところを見ていた目撃者がその戸を叩き、人を埋めたスコップで撲殺される(これ時系列めっちゃきつくないっすか)。

山中には明らかに複数の人間の痕跡(&埋めた後)があるはずなのに、山の捜索では発見されずたまたま危険なルートを降りた登山者がいきなり殺害されたことになる。

 

同じような時期に10歳の裕之も一酸化炭素中毒でフラフラ歩いてるはずなんだけど、この事件にはまるで関係していない。

 

一番悪いのが全部のネタバレを詳細に書いて玩具みたいな箱に入れておいた浅野。

そして隠匿や癒着、裕之の最初の罪を見逃したり岩田に偽罪を押し付けた検察、とにかく権力者が悪いって話なんでしょうか…?

とにかく作者の主義主張(と翼の向き)はめっちゃよく分かりました!
しかしやっぱりミステリじゃないです!(私の激オコポイントはここw)

 

さてさて、そんな訳で私の感想は以上になります。

 

現代的な内容に変わったドラマ版は、途中で視聴止まってるのでこっちのラストがミステリ的にどうなってるのか知りたいな。
裕之の背中に傷跡があったり母子心中だったり、しかし母は自殺じゃないと言われてたりして明確な殺意がありそうなんですよね…気になる!

 他の方はどう読むのかな?と期待しつつ、それではまた!