今日は江波光則さんの小説「屈折する星屑」の感想。
宇宙の辺境にある、小さなスペースコロニーで暮らす青年の青春と、コロニーの終わりの物語。
物語としては終末後の地球を描いた「我もまたアルカディアにあり」の方が好きかも。
「屈折する星屑」はタイトル通りかなりひねくれていて、誰も救われない。
ただ独特のこじらせ感は相変わらず面白かった。
少し使い古された言葉を使うと、江南さんの物語は近未来のライ麦畑なんだと思う。
青春の屈折した、砕けそうで脆い輝き。
そういうのが好きな人にはお勧めの1冊です。
大体のあらすじ
主人公は宇宙の辺境コロニーに住む青年ヘイウッド。
上にも下にも地面があり、真ん中に作り物の太陽が浮かぶ狭い世界で、中空を空飛ぶマシンで駆け抜ける、危険なレースにハマっている。
後ろに相棒で恋人のキャットを乗せて、彼女と自由に飛び続けられるならば何もいらない、そんな日々。
ところがある日落ちてきた巨大な宇宙船がコロニーを貫いて、彼の日常を変えてしまうのだった…。
ヘイウッドの暮らす宇宙コロニーは世界から取り残されていて、未来への希望は見えない。しかしただ生きていくだけなら何の支障もない、そんな時間の止まった場所。
主人公は自分を取り巻く世界に興味を持たず、自分の宇宙の端っこコロニーが何を財源に成り立っているのかも知らない。
楽しい事は命がけのレースだけ、それから恋人キャットがいればいい。
主人公の現実から逃げて楽な方へ流れてしまう感じ、無謀なことに命をかけてしまう危うさ、自分の怒りや悩みについて深く考えず、世界すら知ろうとしない態度がまさにライ麦畑である。
彼のコロニーは放置されている割に金があり、しかも何故か上に立つ人間より下っ端の方がたくさんもらえる仕組みになっている。
つまり苦労して起業するより、飼い慣らされて言われた仕事をこなす方が儲かるシステム。主人公だって、月に数度のアルバイトだけで高価なマシンを買うだけの収入を得られる。
貧乏なはずの、見捨てられたコロニーの収入源は何なのか?
なぜみんなそんな暮らしに疑問を抱かず、静かに鬱々とこの街で暮らし続けられるのか?
終盤、うわぁ…な真実が明らかになり、その後物語はなんともモヤッとなラストを迎える。
すべては明確に暴かれ、主人公は一応復讐を遂げるのだけれど、本当にそれに意味があるのか?と考えさせられてしまう。
屈折してるのは星屑じゃなくて著者なんじゃ…?と言いたくなるくらい辛辣な結末だった。
江波さんの描く主人公って、だいたい煮え切らなくてクソッタレで反社会的。
冷めてるくせにロマンチストで、集団に属すのは苦手なくせに寂しがりや。
ハードじゃなくて、ハーフボイルドなのよね。
でもこの煮え切らなくてウダウダ悩んでいる感じは結構好き。
組織なんてくだらない、と思いながらも一人では生きる意味を見つけられない。
まさに現代の人間像だと思います。
それからSFの皮を被ってるけど「我もまたアルカディアにあり」「屈折する星屑」で江波さんが揶揄しているのは私たちの生活だと思う。
大きなシェルター型マンションに閉じ込められ、衣食住を保障されて暮らす「我もまた~」は生活保護そのものだし、「屈折する星屑」で辺境のコロニーがどこから来たのか分からない財源で成り立っている、と言う図式は国からの借金で生きる地方都市のようだ。
江波さんはそうやって私たちの暮らしをシニカルなSFに仕立て上げ、こんな生き方でいいのか?と切りつけてくる。
ただ今のところ、物語の中で示される答えは『お前といれば何処だって生きられる』で。
私も愛は一つの答えだと思っている。
でも恋愛離れが進むこの時代、果たしてそれは万人への答えになるのだろうか、と考えてしまった。
恋愛離れ、と言えばコミックバーズで連載中の売野機子さんの漫画、『ルポルタージュ』も凄く面白い。
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自由恋愛が廃れ、コンピューターが自分に一番合う人間をセレクトしてくれる近未来。離婚率は低下し、気の合った人間同士、穏やかに平和に暮らせるようになった。
感情に振り回される自由恋愛に溺れる人は少し愚かだ、なんて思われている。
そんな社会で起きた、恋愛を介さない新しいコミュニティを巡るテロ。
そして事件を取材する記者に訪れる、唐突な恋。
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それはちょっとphaさんの新しい暮らし方を彷彿とさせる。
コンピューターは私たちに、傷つかずに済む理想のパートナーをくれる。
でもそれは本当に理想の相手なのだろうか?
旧来の恋愛の、全てがダメだったの?
そんなふうに、こちらも生き方を考えさせられる物語。
コミックスが楽しみです。
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『ルポルタージュ』、今年必ず話題になる作品だと思ってます。
最新話はかなり気になるシーンで終わってるので続きが楽しみ。
ではでは、そんなわけで今日は生き方を考えさせられる2冊の本の紹介でした。